蚊綿のあんな話を聞いてからぼくは自分自身の現実と虚実の境目があやふやになってしまった感覚を覚えた。しかしそれはあいつの発言という信憑性の強さにまんまと催眠をかけられてしまったというよりは、もともと隠し持っていた疑問が現実として暴かれてしまったことへの不安感に近かった。

みんなそうじゃないかと思う。現実の生々しさの中での生活はそんな突拍子もない話、で終わってしまう事でも一人になると(特に眠れない長い長い夜なんて)つい、あれは本当に夢想の話というだけで片づけてしまっていいのだろうか、もしかして僕自身はもう片足突っ込んでしまっているのではないか。そのほとんどはやっぱり考えすぎだったと翌日の朝陽に安心するのだけれども、今回の様なケースがこどものころにはもっと日常茶飯事だったように思えて仕方ない。

そんな風に気持ちの凝りがとれぬまま僕は現実社会でひたすらパソコンと向かい、ひたすらキーボードでカタカタと日常をこなしていた。季節が初夏から夏本番へとさしかかろうとしていたある日の昼休み、再び蚊綿からの連絡が入った。その内容は少し状況に進展があった、というものだった。ぼくはまた心配反面興味にかられ今日でも会おう!と少し空回った勢いで返事をしたので電話の向こうで蚊綿がすこし反応に困っていた。「じゃぁまた」と蚊綿は静かに電話を切った。

窓の外では蝉たちがしゅわんしゅわんと夏への感謝の意を込めるように精一杯鳴いていた。クーラーのしっかり効いているはずの社内なのになぜか汗が流れた気がして、じとっとした額を拭うふりをした。
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