相変わらずミンミンゼミや油蝉は鳴いているけれど、朝晩の冷え込み方だったり憂鬱な曇り空が秋を予感させる。今年の夏を一言で表せばなんだい?なんて質問はもう少し答えられそうにもない。けれど固まりつつあるものはある。そしてそれは深層心理自体はもう秋の気配を確かに感じ取っているということの証明でもあるのだけれど。

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 はなやかなビールの飛沫に始まったぼくの夏。定例の祝杯。今年は当日雨がひどくて、目当ての花火を見ることができなかった。それでも目一杯楽しんで、それはこれからの夏を予感させた。雨が降ったところで夏には何の影響もないんだ。傘をさして○×ゲームに参加して、屋根のある所に密集した飲み人たちの熱気は蒸せるほどで、これ以上何もいらないくらい。そしてぼくはまた、激しい夕立に夏を強く感じることができる。

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 7月には近所の旅館で花火が大花を咲かせた。今までになかったことだったり、8月には連日行うとの予告があったりとぼくは発作を起こしそうなほど心臓が高鳴った。その間いくつか飲む機会があり、溜息の形容詞のようなでっかい入道雲を見上げ、そこを横切ったオニヤンマ、水面に映った夏、とぼく。揃いすぎて怖いほどだった。ぼくの頭の中を支配した『夏』の一文字。これほど確かなものはこの世に存在しないと確信をしていた。

 最中2度ほど酔って戻して、ガンガンと響く頭を抱えながら蝉の声を聞いた。滴る汗は止めどなく、すぐにアルコールは蒸発し、からっからの喉に流し込んだジュース。そんなビールやジュースの空缶を丁寧に積み重ねたなら、あの偉大な夏の太陽に触れたに違いない。そしてもし意思を伝えることができたのなら『ありがとう!』とぼくは太陽に負けないくらいでっかい声で放っただろう。そして感情を解き放ち、流した涙は全て太陽が蒸発させてくれる。

 迎え火をたくころにはぼくは少し現実逃避気味になる。そして予想は当り前に的中し、朝晩が涼しくなり夕方には穏やかに秋虫が鳴き出すようになる。その度僕はあの眠れなかった今年の熱帯夜のことを無理やり思い出す。確かにあの熱帯夜はあったのだと。そう、だんだん夏に自信が無くなっていく…。

 熱帯夜。今年一番ひどかった熱帯夜にとうとうぼくは眠ることを放棄した。放棄したなんて書くとかっこいいけれど眠れないし次の日も休みだし、無理して眠ることもないかと、そう判断しただけのこと。
翌日が休みということで心の負担は軽く、めったにお目にかかれない不眠ととことん対峙した。そして久しぶりに見るあさやけ、虫たちの鳴きやむ時間、鳥たちの鳴き出す時間、空腹と鶏の鳴き声。「不眠よありがとう」、それが夜通し話し合った結果だった。


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 そんな日々も過ぎて、ぼくはいま冬布団をかけて夜は眠っている。あの優しすぎる不眠はやっぱり幻だったのかなと思う。けれどそうすると夏まで幻になってしまうからとりあえず別の意味で納得することにした。どう納得したかというと夏は不平等に短いということ。7月上旬あたりにやっと梅雨明けをし8月上旬には立秋。盆ごろまではまだ猛暑日熱帯夜が続くからそれを加味してもひと月と少々。
結果夏は正味12分の1カ月ということ。あまりに不平等に過ぎませんか。だからこそみんな夏が恋しいんだなあとも思うけれども。

 あの時確信した『夏』も薄らいできて、絶対的だったものが絶対じゃなくなるこの矛盾。この矛盾もまたぼくらを不安にさせる。

 相変わらずセミは鳴いているけれど、網戸越しの風が心地よすぎる。
もう少し、あと少し、夏。



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