2017.02.20 蝸牛の伝言

頼むからさ、そんな怖いこと言わないでおくれよ」

誰から話し出したんだと突っ込みたくなるのを我慢してコーヒーを飲みなす。苦みだけしか感じないのはそもそももとから嫌いだったからに決まっている。味なんてものはとてつもない固定観念だって、お前も言ってたじゃないか。

「そうやってすぐ、人のせいにする…いまさらなんだよ!」

 そうかい、今さらかい。でもサイコロを投げたのだってお前だぜ。しかも1なんて出しやがって、こんなの偶然なんかじゃないぜ、お前の運だ!…なんて言い返したところでまた屁理屈が帰ってくるに決まっている。俺は苦いコーヒーを飲みながらSからの行動を待った。そもそも喫茶店、て。いや、もうやめにしよう。

「じゃぁさ、君も今日家にとまってみてよ、友達じゃん」

 そして都合が悪くなると友達のよしみ作戦。ずずっとわざと最後の一滴を飲みほした。

「じゃぁいくけど、その案飲む代わりに条件をお前も飲むんだぞ!」

「なになに?」180度変わった声質…

「もし、何も起こらなかった場合…お前のおごりで飲みな」

「…えぇ…金欠なんだぜ…さいき」

「じゃあこの交渉はなかったことに…」

「わか、わかった、わかったよぅ、そのかわりむら」

「駄目、飲み場所も俺が指定する!」

そして俺はポケットからチラシを出してSに見せた。

「肉食べ放題4000円2H飲み放題付き♪」

「えー、そしたら2人で8000円じゃん、無理ー」

「なにもお前は食わないでいいよ、金さえもらえれば」

「やだ、喰いたい」

「じゃあ8000円」

「それに俺知っているぞ、お前スクラッチ5万あてたこと」

「ギクッ」

「いいな」

「はい」

「お前すぐ忘れるから今夜だ、ひとりで食ってもつまらない金あるんだ、お前も付き合え!」

「はい…」

「よし、じゃあ今夜じっくり話を聞こう」

「8000円~」

 

「ふう~やっぱり焼き肉は最高だな!」

「だろ、おれなんてただで食うんだもっとうまい。で、なんだ?」

「ええと、むしゃむしゃ…」

 日中散々真剣な顔をして相談していたことがウソみたいに肉を目の前にしたSは野性満々で食欲を貪っていた。

「おい、そこは真面目に話さないと、俺だって暇あっておまえんちとまる訳じゃないんだぜ?」

「そうだったな、ごめんごめん」

むしゃむしゃ

「まあ昼間話した事が大体なんだけれど、兎に角0時だね、0時を過ぎるとむしゃむしゃ。」

ダメだこいつは。恐怖心すらこいつの食欲の前では萎えてしまうのだ。だったらいっそのこと一晩中飯でも食っていれば解決するんじゃないだろうか。太るがな。

「おれは大体仕事が終わってむしゃ、9時ごろ家に帰ってだなむしゃむしゃ、風呂に入ってごくん。まー十時ごろから晩酌するんだ。そんでテレビを見たりゲームをしたりしてなんだかんだ就寝は1時、あ下ろしソースとってくれ」

「それでだな、俺はアパート暮しだが、隣の部屋にな、ぐびぐび住んでる男が」

「それは昼間聞いたよ、要するに隣で何やら不思議な音がしてたまに爆音がなって目が覚めてしまう。3週間くらい我慢したんだがもう五月蠅いわ気になるわで隣の部屋に突入してしまったと、深夜過ぎに。そしたら隣の住人がびっくりして泣きだしたんだろ?そんでお前が謝ったら許さないと、お前のせいで全てがパーになったんだと」

「そういうことだ、でその奏ちゃんがだな」

「ってもうそんな仲なら俺行かなくていいだろ」

「え、おれはその奏ちゃんが怖いだなんて言ってない。その奏ちゃんから聞いた話が怖いって言ってるんだ」

「はぁ…どんな話なの?あ、焦げちまってる、今度は俺が喰いに徹するから分かりやすくゆっくり説明しろ」

「世界が滅びるんだと」

「ぶほっ!肉吹きだしちまったじゃないかもったいねー、そんなの信じてんのか?」

「って、奏ちゃんの部屋に住んでる神様が言うんだよ。金色で小さい蝸牛なんだけど、話ができるんだ「おれは神様なんだよ、地球もうすぐ壊れちゃうよ、どうする事も出来ないけどね」って、俺も聞いたぜ」

「わかった、もういってそのカナちゃんだかとその、神様に直々に会うしかない。」

「だろ!ってええ?今の話を聞いて会うしかないって思ったってことは、奢らなくても来てくれるってこと?という事はここは折半、ゴチッ!!なにも、何も殴る事ないじゃんか!!!」

「いいからさっさと払って来い、で、いくぞ、おまえんち」

「もう!わかったよ」

怒りながら会計に歩いていくSを見ながら俺はもう一杯ビールを頼んだ。フフッ。鼻歌が出た。

 

「奏ちゃんは、泣き虫だから怖がらすなよ」

「はいはい」

ピンポーン。

Sが呼び鈴を鳴らす。

「カナちゃんいるかい?」

すると中から20前後といった俺たちより少し年下の男の子が出てきた。色の白く透き通った肌で小柄な体型身長は160cm前後といったところだろう。

「Sくん、やぁ」

精気の抜けたような声と風貌でカナと呼ばれる男の子は俺たちを招きいれた。

「どうも、はじめまして」

「君の事はSくんからさっき聞いてるよ…。じゃあさっそく…」

俺たちを今に敷かれた炬燵に座らせるとカナはいったん家の奥へといき、なにやらかを手に持って再び今の炬燵へ戻ってきた。

「これが神様だよ」

そういってカナが持ってきた紙箱の蓋を開けると、そこには確かに眩しいほどに輝く金色の蝸牛がいた。

「ヤア、&%&#(“’)

カタツムリは確かに、俺の名前を、言った。

 



2017.01.18 スケッチ

-スケッチ-

ひつるが瞼をこすりこすり窓を開けると曇り空だった。眠りの浅さが拍車をかけて頭に10トンくらいの塊が乗っている。はぁ、と小さな溜め息をつくとしぶしぶ身支度にかかる。

 

 (どうしたものか。昨日の全ては幻だったのか)あまり働かない自分の脳では整理できずまあもとから働かないと自身につっこみを入れることでしかとりあえずの終止符が打てない。歯磨きをすませ薄めの上着をかぶり出ることにした。

 

緩弦地方は基本1年穏やかに四季が流れる。他の地方では真冬と言われる時期でも細雪が、それもどこかから流れてきたようなものがちらちら舞う程度だ。暖房はいれるが冬の8割は稼働させずに済む。それこそこどもたちは1年中半袖半ズボンということもこの地方では更で大人もそんなラフな格好の者が多い。

 

ひつるの仕事は夏がピークでそのほかの時期は適当に休みを取って問題がなかった。またこの地方の地域性で夏もほとんど緩やかなため1.2週間が稼ぎ時でそのほかは自由に暮らす事が出来た。休みの時期に入れば日がなぶらぶらと歩き回り適当な場所で腰をおろしてはスケッチして過ごすことが日課となっていた。

 

その絵はまたとある場所でそこそこの値段で売れ、それを小遣いに、まあそこそこの安定した暮らしができていた。

 

-絵画コレクタ/白昼の悪事-

 ひつるは一カ月ほど絵を描いたり描かなかったりぶらぶらと過ごす日々を送った。そして9月の末日とある店を訪れた。「斎藤妙宝堂」というなんとも古めかしい木材の小さな建物の中には白い長髪白いひげを生やしだるまのようにコロコロとした小さな老人がいた。ここの店主“さいろう”である。

「ひつづ、どうだね、今月…むんむぬ…」

「どうかな…さいろうさん選んでくれればいいよ…あんまりよくない」

「うーん、どれどりぇ…」「んー」

「…5万でどうじゃ?」

「どうじゃもなにもないよ、あるはずがない、どうしてこんなどうしようもない絵をさいろうさんは買ってくれるんだい?そんな()端金(・・)()

「んふっふっふ。価値など人それぞれだわぃ」「これはおいらの趣味でのー」

「…ありがとう」

いったいあのおじいさんはあの絵をどうしてるんだろうと、ひつるは妙宝堂の帰り道にいつも考える。売った絵は次の月に寄るとあの狭い店内に見当たらず、しかしあんな素人がしかも趣味で描くような絵が高値で売れるなど信じられるはずもなく。後ろめたくも暖まった懐を抱えながらそんなことを想い、ひつるは居酒屋へと向かった。

 

-さいろうさん-

さいろうさんとの出会いは昨年の9月下旬であった。仕事のピークも過ぎてまたぶらぶらとした生活が始まり、ぼくはとある河川敷で夕方ラフスケッチをしていた。だいぶ日が暮れてもう限界だなと片づけ始めた時犬の散歩をしていたさいろうさんと初対面した。

「おもしろいえをかいちょるの…ぅ…」

「あ、ありがとうございます!」

ぼくは普段褒められるどころか声をかけられる事さえ滅多になかったため、すっかり満面の笑みで返事をした。

「どうかね、君。わしは古物商をしている…ぅー、もの…だが。君さえよければ…こんどうちにきてみてはくれんかのぉ…。」

「ぼくが…ですか?」

「そう、きみだ…。菱鳥町の斎藤妙宝堂というところで…あぁ…北町と駆來市の交差点があるじゃろ…東泉マンションがたっとる…あそこのマンションと北町側の道の間をの、まっすぐ奥に…あぁ…進むとあるから。小さい建物だが、まあくればわかるでの。」

「はい」

「じゃぁ…またの」

そういうとさいろうさんは白いひげをなでながらゆっくりゆっくりと黄昏の町の奥へと消えていった。

2013.06.03 みんな海
僕が海辺へでたときはだれもいなかった。カモメたちが空で遊んで波が絶え間なく打ち青空が広がっていた。僕はその下でそろそろ来るだろう夏を想っていた。花火のカスが散らばっている。一足早く誰かがやったんだろう。僕はそこを見つめては花火で遊ぶ人達を想像した。高校生の子たちかな、それとも家族連れがきてやっていったんだろうか。キャンプもしたのかもしれない。

 絶え間ない時間は直ぐに過ぎてしまう。そんな事を考えている間にも夕闇が迫って来ていた。潮が満ちてきて直ぐそこで波打つ音が聞こえる。さっきの昼間の波と今の波は一緒なのに何か違う、波の気持ちが変るんだろうか、そして夜にはもっと波は表情を変える。

 赤月が昇り始めた空は、あちこちで星が瞬いている。今夜はどの星が語ってくれるんだろうと、僕はもう部屋の窓に戻って見上げている。あんなに赤いのも変なんだよな。太陽が赤くなるのは自然なのに、なぜ月はいつまでたっても慣れないのだろう?そんなことを僕が考えているとは知らずに月はずっと空の果てを見上げてもっと速く動けと力んでいるんだ。やめてくれ。

 真夜中の中央に僕が、眠れない体を半分あずけてその半分で月に近づく。
少しの間だけ、僕は僕を忘れるんだ。そして夜中の波や月や星になる。ただただ波打ちつづける、ただただ地上を見下ろす。それで朝が来るんだ、きちんと眠れてる。

 チチチと鳥が鳴くと街が始まる。僕ら一人一人に確認なんかしない。きみらは人として同体なんだと決めつけている。そしてきめつけられているとも知らずに自転車に乗った中年なりかけのビジネスマンが鼻歌歌いながら仕事に行こうとする朝にぼくはため息なんかつきながらずっと波打っているんだ。ざばーん、ざばーん…

僕は海。今の確かな事に根付いて安心する半面、それが不正解であってほしいと願う。存続自体が正義なのは地球だけ。僕たちはいつまでももがかなきゃいけないから。全てを把握するなんてできないけれどね。

僕は海。君も海。みんなみんな海。
2012.06.21 たまな詩考
ポジティブな詩ってあまり
需要は無いものかな
そもそも詩なんて
答えのないものの集約
または何処か散文的なものにこそ
人の心って惹かれるのかもしれない
そんなことも思うけれど

たぶん心の真理を手繰れば
その空間のなかに誰しも
散文的物が散らばって
いつか意味づけるものもある
後付けの意味というか
やっと意味がわかるというか

そうだきっと
にんげんは一人ひとり
心の中に
詩を綴っていて
その読み返す時に初めて
今までの意味を知るのかもしれない
2012.04.02 あり続ける
ときどきあの空で
影法師作ってた
森のなかにいるような
いないような化身は
僕らの通りすぎる道の
足跡から染み込んだ
落ちた心たちが育ててる

僕らはしらないうちに
歩いている間に、色々と
落としているんだ
決して気づくことはできない
この事実を知っても
僕らは落とし続けるしかない

それを養分に
(想像はそれぞれしてくれればそれが正解)
あたり前に育つ森の奥は
どこからか届く
冷たい雨がいつも吹いている

みみずくやふくろう
あれも僕らは知らない
自分のすることを
無関心に鳴き続けるよ

あり続ける限り