結局すべての後始末を負わされしぶしぶと箒をふりこる僕に神など存在しないのだ。
不在を悟って、また都合よく信じてその繰り返し。苦しい時にもほどがある。神様側からすれば
そんな声も聞こえてきそうだけれど。

なんだかんだと片付けが終わったのは0時すぎ。くたくたの体を抱えて店のシャッターを閉めた。

「ハァー...」

空に向かって吹いた息が一瞬白く凝って消えた。今夜は新月。…笑うな。

コンビニにより夕飯をあさる。腹は減っている。
電子マネーの残高を確認しようとスマホをポケットからだすと電池がない。
「とことん」
そう独り言を言って乱暴にポケットにしまい、同時にショルダーバッグから財布を出す。
500円玉がでんと構え他の小銭たちを足場にしている。「つかってやる!」そう言って
つまみだす。

85円の麦茶、それから140円のカップラーメン、125円の野菜ジュース。
チャリン。

あくびをしながら車を走らせる。カーステレオからは最近気に入っている彩というひとの
「七つの海」いい曲だ。何回も何回もrepeatして聞く。

 点滅の十字路で一時停止していると、横断歩道を渡ろうとする白いスーツを着た男が居た。
(さっさとわたれ)テレパシーが通じたのか男はこっちを見る。そして向かってくる。

「どうも、こんばんは。よい夜ですね」

 良い夜も何もない。おれはもうさっさとかえって眠りたいだけだ。

「なんですか?」

「よい夜ですね」

「よい夜か悪い夜かわからないけれど、なんか用?」

「うん…よい夜です」

「ヒッチハイクか?そんなんじゃみんな意味不明で乗せないだろうな?どこまでだ、近くなら乗せてくよ」

「あはは」

「ひやかしか?なら俺はつかれてるんだ。じゃあな」

 窓を閉めて発進をしようとするが車が動かない。エンジンをかけなおしても同じだ。

「おまえ!なにかやったのか!いたずらにもほどがある!おれはもうねむいんだ!」

「ねむいならねむればいい」

「なんだと!」

 おれは怒りが頂点に来て外へ出てその男の胸ぐらを掴んだ。

「ばかにしやがって!」

 白スーツの男は表情変えずただ俺の顔を見つめる。

「ねたいんだな…」と白スーツ。

「ああ、ねたいんだよ」俺。


「ならねかせてあげよう!とっておきにねかせてあげるよ!」

俺はもうどうでもいいとおもった。車が動かないなら仕方ない。
もう家まで近いことだし、コンビニまで歩いてタクシーを呼ぶ事にした。

(ったく、今日は本当についていない)

近くのコンビニに入り、店員に電話を借りた。
いまどきのコンビニは公衆電話もない。

トゥルルルー…トゥルルルー 

「もしもし、○○タクシーでございます」
「あー、△○コンビニまでタクシー一台」
「かしこまりました、それにしても今夜はよい夜ですね」




目が覚めると俺はまだ会社の中にいた。
夢か…頭がもうろうとしている。時間を見ると時計は0時を指していた。
くたくたの体を抱えて店のシャッターを閉める。

空には…満月。

「今夜はよい夜ですね」


以前酔っぱらってた月の奴が、俺の顔面めがけて思いっきり白いスーツを投げてきた。

「着ろ」

「は?」

「これから飲みに行くぞ!だからそんなやぼったいスーツなんで脱いでこのシルクのスーツ着ろ!」
「今夜はとことん付き合えーーー!」


いつの間にか地上に降りてきた月が俺と肩を組んでいる。
そしてこのあとふたりで「酔い処○○駅前店」へいって朝まで飲んだ。

目覚めると月は消えていて太陽が昇っていた。

朝日を浴びると月から借りたシルクのスーツの背中には「恩」て文字が浮き出ていたんだけれど
それに気付いたのは間に合わなくてそのままの服で会社に行って…そのあと。

<おわり>
僕は眠らなければならないと思った。今夜やつがくるのなら、そのまえにもっと深い眠りにつくことが必要だからだ。やつとはもちろん悪夢のこと。なんの心理的要因も思い浮かばないのだけれど、さいきん立て続けに同じ悪夢をみてうなされている。

初めて見たのは確かちょうど1週間前の夜。その日は熱帯夜だったこともあり、また翌日が休日だったので深酒をした。それも原因のような気がするが、それでもなんであんな夢なのか、状況が理解できなかった。夢は深層心理が表れるものだというけれど、それにしても、本人の知らないものまで果たして出てくるものだろうか?それとも知らないうちにあんな状況を記憶してしまったなら、僕は自分の秘められた天才性を信じなければならないことになる。とにかく1日目の夢はこんな感じだった。

第一夜

「なぞなぞしよう。」
ブランコに乗った肥満気味のピエロが声かける。そのとても穏やかな口調と表情はどこか、僕に懐かしさを覚えさせた。ぼくはそこで「うん、しよう」とうれしそうに返事をする。

「では。空は青いのに地球は青いのに宇宙は暗い。なんで?」

夢の中の僕は首を傾げ真剣に考える。なぜ宇宙は暗い?地球は太陽の光でこんなに昼間明るくなるのに…。そして僕は結局降参してしまう。

「わからない。けれど言い訳みたいだけれど、それはなぞなぞじゃない気がするよ…」

「なぞなぞしよう。」

「うん、もっとおもしろいのたのむよ」

「では。空は青いのに地球は青いのに宇宙は暗い。なんで?」

「え、さっきとおなじじゃん!別のっていったでしょ」

「ああ…ごめんごめん…じゃぁ…」

するとピエロはじっと空を見上げ固まってしまう。そして急に世界が暗くなる。ピエロの声だけが聞こえる。

「ああ…ごめんごめん…じゃぁ…」「ああ…ごめんごめん…じゃぁ…」「ああ…ごめんごめん…じゃぁ…」…

すると急激な眠気がおそう。もうひとつ深い夢に落ちる。そこの居心地の悪さをしっているからなんとか起きようとするんだけれど、その時ではもう遅い。

落ちる。


夢の第二層では深く広い闇の奥でメリーゴーランドが回っている。回っていることはわかるのだけれど、視覚で確認することはできない。けれどそこでは確かにメリーゴーランドが回っている。

隣に人の気配がする。奴だ。僕は怖くて怖くて仕方がないのだけれど、顔が勝手にそいつの目と僕の目を合わせようとする。金色の目。目の奥に宇宙があるのだけれど、それは僕らの知る宇宙ではなくて、なんだか…。

そして目が覚めると、最後の光景だけ思い出せない。
白いこどもがいて
僕はどこへ行きましょうかと、バス停の雲人に訪ねている。

「私に聞かれてもねぇ…」

困った顔で雲人は首をひねり、そのまま帽子を深く被って
しまった。

白いこどもは白いこどもで
困った顔をしている。けれど泣くような顔ではない。
じゃぁ、とりあえず、そう言って白い子どもも
雲人の隣に立ちバスを待つことにした。

雲人はもう、多分意識的にだと思うが、こどもなど
いないという風に振る舞い帽子をあげ、あくびをしたり
無駄に首を曲げて自分の肩を「こったこった」といいながら
見せつけるようにもんでいる。

そうこうしている間に、バスはやってきた。さっさと
雲人は乗り込み、白い子どもも後から乗り込んだ。

バスが発車すると白い子どもは窓の外を見た。
夜も朝もない、窓の外。雲人は再び深く帽子をかぶり
静かに眠っている。

車掌が切符を切りに来ると、白い子どもは
はい、と定期券風の紙を渡した。車掌はふ~ん、
といった目を流し、程なく通りすぎた。

白い子どもは大事そうに紙をバックにしまい、その
後はまたじっと窓の外を眺めていた。まるで一枚の
絵画のように、じっと。

僕はどこまでいけばいいのだろう。本当はこのまま
一枚の絵になって、永遠にバスに乗っていられたな
らいいんだ。けれど、このバスの行き先は永遠じゃ
ない。


白い子どもがいて
僕はどこへ行きましょうかと、隣の白人に訪ねて
いる。白人は、なにも答えない。




飲み屋を二軒梯子し、久方ぶりに気持ち良く酔った俺は鼻歌交じりに帰路を辿っていた。九月上旬の月はよく空にはえている。「満月かぁ…月見るのなんて久しぶりだなぁ」
俺は上機嫌に月を見上げつぶやいた。心地よい酔いのせいか、久しぶりに見上げた月は本当に美しく感じた。するとそこにちょうど公園があり、俺は誰もいない土手の公園におり、ブランコに腰かけた。

せっかくだから漕いでみるか。酔い任せに俺は月を見ながらブランコをこいでみることにした。冷静ならばせっかくの気持よい酔いが悪酔いになってしまうことを判断できたのだが、俺はだいぶ酔っていた。それでも子供のころのように思い切りこいだりはせず、ゆらゆらと、足がつく程度の揺らし方だった。

ほてった体に9月の夜風は冷たい。それがまた心地よく俺はなんだか眠気もだんだん増していた。もう少しだけ月を見て帰ろう。秋の虫たちも鳴いてこれほど心地いい時なんてなかなかないぞ。神様が久しぶりに心地よく酔えた俺へプレゼントをくれたんだろう。

そして間もなく俺はブランコに乗ったまま眠ってしまった。

「おい…、おい」
誰かが呼んでいる。だが俺は眠くて仕方がない。面倒だから寝た振りを通そうと思った。
「おい、おきろよ…風邪ひくぞ」
大丈夫大丈夫。俺はこれくらいで風邪ひかん。心の中で答えはしたが俺はもう寝た振りを決め込み反応は見せなかった。

しかし、なんだか眠りづらい。異様に明るいのだ。今俺に声をかけた人が、車のヘッドライドで足元を照らしながらわざわざ来てくれたのだろうか?

そうであればさすがに悪いと思い、俺は体を起こした。

「ご心配ありがとうございます。飲んだ帰りに月がとてもきれいで、ここでみていたらついついね…」

それにしても正面に車を止めているのか眩しくて仕方ない。状況を確認しようと目を正面にむけると、そこにいたのは何とも大きな満月だった。


「そうか、気持ちよく飲んでいたのか。だがここで寝ていては
せっかくの気持ち良い酔いも明日にはひどい事になってしまうぞ」

俺はなにがなんだか状況をつかめず、心配してくれているらしい満月に何も言葉を返すことができなかった。

「あ、すまんすまん。俺が急に目の前に現れては驚くに決まっているわな。あっはっはっは」

「は、はぁ…」

「気にするでない。俺は時々こうして地上に降りては人に会ったり、観察したりしておるのだ」

「そ、そうなんですか…」

「じゃ、気をつけて家へ帰るのだぞ!」

そういうと月は轟音を立て、まるでロケットのように空へと帰っていった。
すると空から何かがはらりと落ちてきた。俺はそれを拾った。

「酔い処 ○○駅前店…領収書?」

あまりの出来事に頭が真っ白になっていたが、冷静になるとあたりには酒の匂いが充満していた。俺が今夜飲んだのはビールと焼酎だけだったのだが充満しているのはワインの香りで、それもかなりの匂いだった。
居場所についた月が空で何かやっている。どうやら俺が感動していた月は精密な張りぼてだったらしい。あの偽物の月に感動していたのかと俺は大笑いするしかなかった。





空には満月。
だいぶ高いのに、まだ、赤みがかっていた。

月も飲みたい時があるのか。
いやいや、だよなぁ…、誰だってなぁ…
あるよなぁ……。



日差しの届かない夏の草はらの葉の陰に
夏虫は一匹静かに今日もひたすら生命活動を続けている。
夏の間しか存在できず、生き物の目には昼間、透明にしか映らない夏虫。
その存在意義など分からないし分かりたいという欲も本人にはない。
ただひたすら蒸す草むらの中、トロリトロリと透明な粘液を跡に残しながら
夏虫は、夏の世界を巡回するのだ。

夏虫は夜になると別の姿を見せる。
日中透明だったその体表は空を反映し、晴天の夜には星々を輝かせ
もっと澄んだ世界に生息する夏虫は天の川までも体表に美しく写した。
そして体表に写しだされた空の世界を今度は虫たちが、好奇心に駆られ覗きに来る。
心地よく鳴いている虫たちでさえその姿を一目見ると瞬時に鳴きやみ
夏虫の方へと寄ってくる。

そうっと夏虫を驚かせないように寄ってきて、
じっと夏虫の体表を覗く。




虫たちはすぐ目の前にある星の世界を
じっと覗いて間もなく

静かに、とても静かになくのだった。