銀河と四季の道標

綴りたいことは日々あふれるからその溜め処。

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銀河鉄道の夜たち<1>

蚊綿はぬるくなったビールをくいっと一飲みにすると、少し力の加減が分からないという風に強めにコップを置いた。ゴチンと嫌な音が響く。

「すこし…おれのなかでも整理できていない、ただ…聞いてもらえると少し落ち着けるかもしれないし余計混乱するかもしれない…それに君の事まで巻き込んでしまう事になるかもしれない…それでも君は聞いてくれるかい?」

 なんだか少し怖かった。蚊綿が酔って話した法螺ではない事は確信していたし、逆に酔わなくては言えないほどそれはとても大きな問題だったのだろう。そう思う反面、気持ちよく酔っていた僕はこれは、今年の夏は面白い事になるかもしれないと好奇心の渦が体中を渡り、疼く何かに体中をかきむしりたいほどだった。

「うん、とりあえずきかせて」

 それでもまだ決心がつかないのか少し蚊綿は固まってじっくり何かを考えている。
ふうーーーーーっ…と大きなため息をつくとテーブルの卓上ベルを静かにならした。

「少し長くなる、付き合ってくれ」
「OK」
 
 蚊綿と僕はビールの中ジョッキを1つずつ頼んだ。
 そして「では初夏にもう一度」そういって乾杯をする。

 ぼくがちびりと飲む手前、蚊綿はあおるようにジョッキを持ちあげ一気にビールを胃袋へと流しこんだ。今度は蚊綿が先に沈黙を破った。

 「結論から言おう、俺は死んでるかもしれない。」
 「今日の昼間君と夜ここで落ち合おうと話した後、俺はたまたま通った河川敷で溺れている4~5歳の女の子をみつけた、そして何を判断するもなく体から川に飛び込んだ。思っていたより川は深く何とか女の子は岸にあげる事が出来たが俺はそのまま力果て溺れてしまった…はずなのだが」

 「なぜかここにいる、と?」ぼくが答える。

  静かに蚊綿はうなずく。

  「そして俺はまるでお前の好きな銀河鉄道の夜だと思った。なぁ、俺は何をすれば生き返る事が出来る!?」
  
  僕はもう何も答えられなかった。例え宇宙が栄えて滅びるほどの時が過ぎたって、この沈黙は終わらない、終えられようがなかった。

 しかし僕らの乗った銀河鉄道は発車するどころかだんだんと空の向こうの朝日さえ沁み入ってくる。

 「とりあえず、いったん日常に戻ろう」

 自分が何を言っているのかわからなかったがこうして僕たちは別れせわしない日常へと戻っていた。朝陽の中でも蚊綿の足はしっかり大地を踏みしめ家の方向へと向かっていた。なにが真実でなにか虚構なのか、僕に判断する術はなかった。
  



銀河鉄道の夜たち(序)

「銀河鉄道を本当にみた事あるかい」
蚊綿が聞いてきた。僕が返答に困って挙動不審をつくると黙って見ている。

初夏に乾杯しようと言い出したのはぼくだった。「いいね」といって蚊綿はちらっと視線を合わせる。「じゃぁ、今夜」そんな風にいつもみたいに屁理屈を上げてただ飲む機会をつくっただけだったのだけれども、なんだか今夜の蚊綿はいつもと違う様子だった。

「本と、あとアニメの映画かな…。それなら読んだし見た。ますむらひろし。」

沈黙に負けた僕が答える。しかし蚊綿はそんなことはどうでもいいという風に、ちびっとビールを飲んでため息をついた。

「違うよ、もちろん本物の話だ」

珍しく酔っているのかな、と思った。蚊綿はそんなメルヘンの話をする奴じゃなかったし、遠まわしな話をする奴でもなかった。僕がいつだか死ぬのは嫌だけれどジョバンニのように銀河鉄道で旅行できたらいいななんていったら「じゃぁ俺はカムパネルラか、お前の犠牲になるのか。」くだらない、と本気か嘘かわからないしかめっ面をしていた。

そしてまた銀河みたいな無音が続く。宇宙だから酸素までないのか、そんな息苦しさに耐えかねてまたぼくから呼吸する。

「のったの?」

 言った後に僕はぷっと吹き出してしまった。あわてて顔を隠したがそんなことは全く気にせず、逆に蚊綿は余計深刻な顔つきになった。

「のったんだ」

 見た事のない、助けを求めるかのような表情にそれは真実としか受け止めようがなかった。


そしてぼくらの宇宙の果てまで続く、長い長い銀河鉄道の旅が静かに幕を開けた。




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